第三楽章 〜生還〜

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3-7 心だけは病気に支配させない

成田)引っ越しも誰かにに相談すれば反対されたでしょうね。でも、「結果がはっきりわかるまで前に進んでいれば良い!」と決めると、体の底からエネルギーが湧いてきました。長年お世話になっている不動産屋さんの女性社長に全てを話すと、「うちは、良い部屋を探すことで成田さんを応援します!」と言ってくださいました。そして、学校は今月からスタートするクラスの受講続行を決め、教科書を買い足しました。仕事も「全て私ができる!」ことを疑わないことに決めました。その時はその時だ!今から最悪の治療の準備なんかするもんか!(笑)

「心だけは病気に支配させない」が前回からの私の信条だったはず。病気に怯えて小さくならない!したいことをして、会いたい人に会う。
武枝さん、このように考え方と行動を変えたことで、今の私は本当に元気です。これまでも奇跡を起こしてきた自分の力も信じています。私がそのように考え動くと、たくさんの人が力を貸してくださいます。改めて、大切な人のことや、自分自身が大事にしていることについて深く想い直しています。
そのことは一度目の復活時点でわかったつもりでいましたが、人間とは忘れやすい生き物です。いえ、私がそうなのかしらね。このあと、どんな結果が待っているかはわかりませんが、私は今、自分の中に「悪いもの」の存在を感じられないのですよ。どんな経過を辿ろうと、どんな結果になろうと、このやりとりは必ず希望に向かうと信じています。「希望」とは、ハッピーエンドのことではなく、今いまの心の持ち方の中にあるものではないでしょうか?

武枝)あのね、ユダヤ人の菓子職人さんの話なんだけど、1939年のナチ・ドイツのポーランド侵攻により、アウシュビッツに2年間収容されたイスラエル・クリスタルさんという方が、生き延びて運よく救い出され、113歳という世界最高齢まで存命されたそうで。収容所で妻子を失くされたけれど、再婚し、2人の子供さんがいて、そのうちの娘さんがね、「(父は)楽観主義者で、あらゆる物に希望と美徳だけを見い出していた」って。新聞記事で読んだのだけど、ああ、そういうことのできる人がもうひとりいるぞって。それが成田さんだ~!   

成田)うわ〜!まいるな〜。う〜ん、私は「楽観主義」なのかなぁ。悲観的でないのは確かですね。「希望」は常に根拠なく持っています。でも「美德」というのはどうでしょう。 一つ自信を持って言えるとすれば、悲しみや苦しみにぴったり張り付くように隠れている深い幸福感を見つけることは得意かもしれません。だからと言って、冒険家のように苦しみに挑んだり望んだりする気持ちは全くありませんが、実際のところ、その体験があってこそ気づける感謝の気持ちや、ちょっとしたことに感じる幸福感があることもまた事実です。「うれしい、たのしい、だいすき」の感度が上がると言いますか、女神様がそこここにいらして、微笑まれているような気がします

武枝)そう、成田さんは、楽観主義者ではないですね。完成度を上げるために常に知恵を絞ったり、心を砕いたり、努力を惜しまない生き方をしているからといって、必ずしも完璧主義者であるとは限らないように。なぜなら、成田さんに湧きあがる感情の“音色”は楽観の一色(ひといろ)じゃないから。眩いくらいに白一色の時もあるけれど、ある時は黒煙まじりの炎色、かと思えば、成田さんが着物の帯に締めたら似合いそうな錆の効いた鈍(にび)色、そして、玉虫の翅が放つ虫襖(むしあお)のように光によってさまざまな色に見える!ほんと重層的ですからねぇ。

それに、《悲しみや苦しみにぴったり張り付くように隠れている深い幸福感を見つけることは得意かもしれません。》と。こんな深い言葉、成田さん以外の誰が発することができるでしょう。

しかも、続けての《冒険家のように苦しみに挑んだり望んだりする気持ちは全くありませんが、実際のところ、その体験があってこそ気づける感謝の気持ちや、ちょっとしたことに感じる幸福感があることもまた事実です。「うれしい、たのしい、だいすき」の感度が上がると言いますか。》だなんて!目が覚めるほどに素晴らしい感覚ですね。

成田)私が社会復帰できるよう、懸命に考えてくださるドクター。毎回、診察室で寄り添ってくださる看護師さん(がん告知を受けた患者さんに寄り添うことに特化された看護師さん)。笑声®レッスンをしている時のエネルギーの高まり。一つ一つの仕事のありがたさ。自分の想いを正直な言葉で表現できるこのやり取りの高揚感。30年以上前に武枝さんと出会った意味。友人の心に刺さる言葉やさりげない心遣い。数えたらキリがありませんが、それら一つ一つに心が躍り、その瞬間瞬間にワクワクしている自分がいるんです。不思議なことです。

武枝さん、強運レデイースのY子さんを覚えていますか。「臍帯血移植」しか助かる道はないと宣告された人です。3ヶ月の過酷な治療を受け退院されて3年。今ではしっかり職場に復帰されています。「また人生の時間が止められてしまうなんて!」と愚痴ってしまった私に、こう言ってくださいました。「成田さん、80歳までは仕事するでしょう。だったら、今年1年くらい治療に使っても大したことはないですよ」って。
Y子さんにそう言われると、「そうねぇ〜」なんて納得してしまいます(笑)カフェで「生き方戦略会議」を二人で開催し、未来について話していると、いつの間にか4時間半が過ぎていて、お店の方が伝票を持っていらしてレジへと促されてしまいました。恥ずかしい(笑)

Y子さんの聴く力と私の笑声力。その声と言葉を自分の耳(脳)が聞いています。次第に希望しか感じられなくなりました。 決して病気に心を支配させない。結果が出るその時まで、いつも通りに過ごしていようと思います。その時はその時だ。あっ!これはやっぱり楽観主義かしら〜。

武枝)はい、覚えていますとも!強運レデイースのY子さんは、会ったことがなくても、伝(つて)に聞いただけで、私にとって忘れられない大地のような存在になっています。Y子さんのような方が、この世にいらっしゃるというだけで心が平らかになります。

「希望とは、ハッピーエンドのことではなく、今いまの心の持ち方の中にある」って、“希望という中心”を成田さんが持っているからこそ、その中心を共有する人たち(ドクターも、看護師さんも、Y子さんも、不動屋さんも、他のいろんな周囲の人たちも)が、成田さんのことではありつつも、自分のこととして向き合って下さってるのではないかしらと愚考するのです。

数学で習っている時には気づかなかったけれど、これぞ、奇跡を起こしうる「同心円」でのエネルギーの重なり合いではないかと実感しています。

成田)なるほど!同心円かぁ!私は言葉にはできませんでしたが、確かにそのようなエネルギーの中にいるように感じることがあります。エネルギーの中心にあるのは「希望」ですね。人は本来、希望に向かって生きたい生き物なのではないでしょうか。だから、希望のエネルギーを中心に持つ人同士が引き寄せあい、繋がり、さらに大きなエネルギー体になるようなイメージが浮かびました。これは強力ですね!だから、深いところで感じる幸福感に包まれるのかもしれません。いえ、そうに違いないです。
武枝さん、その「希望のエネルギー」は、私の気持ちを変えただけでなく、現状をも好転させているのかもしれません。

武枝)来たァ~~~!

成田)先日、がんを検査する方法の一つである「PET検査(陽電子放射線断層撮影)」を受けました。簡単に言うと、全身の細胞のうち、がん細胞だけに目印をつけるという検査で、かなり小さな早期がん細胞まで発見できるというものです。その結果を聞きに行った日、主治医のO先生の第一声は「成田さん、良いお知らせです」から始まりました。
なんと!PET検査では、全身のどこにも「がんらしき目印」はつきませんでした。2015年に初めてこの検査を受けたときは、鼻の奥がはっきりピカッとオレンジ色に光っていました。でも、今回はどこも光っていないのです。私はしばらく、自分の全身の画像をまじまじと見つめていました。

武枝)知り合いに兵庫県のPETセンターに関わる方がいらして、その方からのお話を聞いて少しの知識はあったのですが、“ピカッとオレンジ色に光って”ということは知りませんでした。2015年に、成田さんがその光を見た時の気持ちを想像しただけで頭がくらくらします。MRIの他にもいろんな検査を受け、更に、長時間のPET検査のために、多量の放射線を浴びて、大変な思いをしたのよね。検査だけでも肉体的、精神的に疲れ果てたことでしょう。それにしても、なんと嬉しいお知らせ!

成田)先日まで「骨髄移植しかない」との説明を受けていたのに、一気に可能性が3つに広がりました。一つは「経過観察」。二つ目は「抗がん剤だけを投与する」。3つ目が「やはり移植する」。私にとっては、目の前がぱ〜っと広がるような希望を感じました。さらに数日後、鼻の奥を内視鏡で診てくださっていた耳鼻科のドクターも、「腫瘍のあったところが綺麗になってきています!」とおっしゃったのです。

私はすっかり舞い上がり、「奇跡は起こった!」いえ「起こした!」とさえ思いました。
すぐに武枝さんにお電話しましたね。武枝さんの「やった〜」という声を聞いて、二人で喜び合い、さらにエネルギーがアップするような思いでした。でも、すぐにクールダウンすることになります。
ドクターがおっしゃるには、やはり「病理検査の結果が一番」なのだそうです。鼻の奥に怪しきものがあった事実は事実。一旦見えなくなっても、全身のどこにまた出てくるかわからないのが「血液のがん」だと。それでもね!選択肢は広がったのも事実です。私にとっては大きな希望です。だからこそ、病理のセカンドオピニオンを受けることにしました。

O先生からお預かりした紹介状には、「病理検査の結果が正しいかどうか」「移植以外に治療方法があるか」などの質問も書かれていました。ありがたいですね。そして、ご準備いただいた、これまでの経緯レポート、全ての画像検査結果、病理標本などを大事に抱えて、その足でセカンドオピニオンの手続きに行ってきました。結果が出るまで2週間ほどかかります。でも、今の私はとても冷静です。見解が示される日まで、普段通り前向きに過ごしながら、自分でしっかり選択したいと思っています。医学は日進月歩ですが、データはデータにすぎません。まだまだ説明のつかない「精神と体の関係」「希望の力」も、私は信じています。

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