武枝)そう!このやり取りを始めてそろそろ1年になりますが、成田さんが持っている「希望の力」の影響を強く感じます。
直近の例では、昨年の復活祭の翌日にドクターから再発の疑いありの告知を受け、「春以降の仕事は受けないほうがいいでしょう」と言われて、成田さんは、それまでに引き受けていた企業研修の仕事の代役を手配したり、学校の休学届けの準備や引越しの中止などを決め、入院に備えて動き始めていたのに、ある時、スパッと切り替えたよね。
《「このままでは、再発を受け入れ、入院に向かってしまう!」。まだ希望があると本当に思うなら、結果がはっきりするまで、「前に進んでいれば良い!」のではないかって。仕事も「全て私ができる!」ことを疑わないことに決めました。その時はその時だ!今から最悪の治療の準備などするもんか!(笑)》
この最後の力強い言葉!私は、この言葉を成田さんが発して、しかも笑ったその時、「精神と体の関係」の密接性、そして「希望の力」が大きく働いた!のではないかって、それが“好転”につながったのではないかって、思うのです。
予定されていた名古屋での企業研修の仕事も、インフルエンザに罹るというハプニングで延期にはなったものの、平成30年2月28日、見事に務めを果たすことができた!代役にお願いするまでもなく、耳の状態を最良にして仕事に臨めるようにと直前に5回目の鼓膜切開もして、ね。
成田さんがその仕事に出かける朝、新幹線に乗る前の品川駅で撮った風景写真をフェイスブックに上げていましたね。昨年末の「復活祭」翌日にショックな告知を受けた後、仕事も学校も引っ越しも諦めかけたけれど、最終的に、前に進むことだけを考えたことで、引き受けた仕事を自分で果たせることになった!さぞかし感無量だったのだろうなということが、その何気ない写真から伝わって、私もしみじみしてしまいました。
セカンドオピニオンでどんな見解が出るのか。成田さんは、《結果が出るまで2週間ほどかかります。でも、今の私はとても冷静です。》と言う。
過去最強クラスの寒波が押し寄せたこの冬ですが、3月になってようやく春めいて、街中の樹々に、新たな芽吹きが溢れかえっています。その姿が成田さんと重なります。
ものの芽の思いの丈を膨らませ 幸子
成田)「ものの芽の思いの丈を膨らませ」かぁ。いいですね〜。先日、散歩中に早咲きの桜の木を見つけました。思わず、私も大地に根を張るように立ち、両手を思いっきり空に伸ばして、木と同じポーズをとってみました。エネルギーが爆発する前の桜の木と一体化したような気分になりました。これ、おすすめです。「ものの芽の思いの丈を膨らませ」を全身で感じることができますよ。
武枝)拙い句から、「エネルギーが爆発する前の桜の木と一体化したような気分」にまで押し広げてしまう、成田さんの感度の高さよ!
よ~し、私も今年の桜が咲いたらやってみよう。
成田)さて、2週間待って、ようやく病理のセカンドオピニオンの結果を聞く日が来ました。
結論としては、やはり「NK/T 細胞リンパ腫 鼻型」と考えられるとのことです。そして、担当医師は「造血幹細胞移植を勧めます」とおっしゃいました。
素人ですが、私の理解の範囲で少し説明させてください。「造血幹細胞移植」とは、通常の化学療法や免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液がんや免疫不全症などに対して、完治させることを目的として行う治療です。
ただ、治療中は大量の化学療法を行うので、自分で血液を作り出すことができなくなります。そのため、自分の血液を凍結しておいて、治療後に戻す「自家移植」か、他人の骨髄を移植する「同種移植」を行います。「同種移植」は完治を目指せる治療方法なのですが、これは最も過酷な治療です。体が拒否反応を起こし、体内で闘いが起こります。その時に起こる副作用は人によって違いますが、口内炎、脱毛、肺炎感染、激しい吐き気や下痢、血栓症、アレルギー症状が高頻度に起こり、肝臓、腎臓、心臓、肺、中枢神経などの重要な臓器に障害が起こることもあります。いずれの合併症も重症化した場合には命に関わることがあります。でも、こうした闘いが激しい方が治療効果は高いそうです。
武枝)仕事を通して培った伝達技術が長けているとはいえ、こんな局面でさえ、なんと理路整然とストレートに伝わる説明を!裏返せば、繰り広げられたセカンドオピニオンがいかに容赦ないものだったかを物語っているのでしょう。よくぞ耐えましたね。
成田)耐えたというより、ただただ冷静に一つの病理についての説明を受けていました。医師もまた、感情を極力抑えて話されているように見えました。セカンドオピニオンとはそういうものだと思います。だからこそ、論理的に病気について理解することができたのでしょう。
他人の骨髄を移植する「同種移植」は、自分の骨髄に根づけば(生着という)、健康な人の血液に入れ替わり”完治する可能性”があります。そんな説明も私には人ごとのように聞こえてきて、すぐにはその話を自分に重ねることができませんでした。一方「自家移植」は、一旦自分の血液を全て取り出して凍結しておき、化学療法を終えた後、体に戻します。これだと自分の骨髄ですから攻撃反応は起きませんが、病気になった自分の骨髄ですから、また再発する可能性があります。
そんなハードな治療をしても再発するかもしれないのです。武枝さん、こんな説明を受けて、どちらかを選ぶことなんて出来ますか?私にはできません。
ましてや、私は今とても元気なのです。そして、鼻の奥で見つかった腫瘍も綺麗になっているのです。PET検査でも、全身への転移は見当たらないのです。私は「移植」という過酷な治療を受け入れる気持ちになれません。ならば、何もせず「経過観察」を選択したらどうなるかというと、今度見つかったときには、すでに内臓などに転移している可能性が高くなり、その時には骨髄移植もできなくなります。手の施しようがなくなるということなのだそうです。
ドクター曰く、「移植をせずに再発しなかった人は、これまでの私の患者では一人だけです。だからゼロではありませんが、経過観察を選ぶなら、そのことを覚悟して選択してください」とクールな言葉で説明されました。私もまた冷静に「病理のセカンドオピニオン」とはそういうものだと理解しました。あくまで「病気」に対して示され選択肢なのです。医師の立場では、完治する可能性のある「同種移植」を勧めるだろうことも理解できました。そしてそれを、あくまで”統計的データ”として受け止めました。でもね、そこには「辛い治療だけど、乗り越えれば確実に治ります」というものは一つもありません。正直なところ、説明を聞けば聞くほど、どの選択もできません。移植をせずに治った人が一人いらしたというなら、私は二人目になりたいと思うばかりでした…。
武枝)きつい、きつ過ぎます。
これまで、いろんな選択肢がある中で、過酷とは分かりながらも成田さんは成田さんらしくあることを選んで乗り切ってきたこと、私はよく知っています。そして、どの瞬間を切り取っても「ああ、成田さんダ~」と言える姿を示してきたよね。
今回提示された選択肢は一応三通り。とはいえ、選びたくないものばかり。いくら並べられても選択肢とは言えないから、選びようがない!
小さい頃、将来何になりたいかと聞かれて、周りのほとんどの子供がすぐに答えられるのに、どれも無理!と心の中で叫び続け、選択肢を自分で狭めてきたような私の場合は、成田さんの今の状況に置かれたら、いや、もっと前の段階で無理無理無理無理!としか到底答えられなかっただろうと思います。
成田さんはすでに過酷な治療を経験し、嫌というほど大変さを知っている。心身ともにギリギリの状態まで追い込まれ、それでも笑顔を絶やさずに。そして見事に復活して、辿り着いた天職のコーチングの仕事を更に充実させようとしている、その成田さんが、またしても治療を、しかももっとハードな治療をしなければいけないことになるなんて!しかも「辛い治療だけど、乗り越えれば確実に治ります」というものは一つもないって!そんなの悔しすぎます。
以前は、病名を本人に告知するかどうかの選択が問題になっていたけれど、今は具体的に本人に説明し、同意の下で治療を進める方向になっていて、それはそれでもっと厳しいなあ……
ただ、ひとつの光明は、「移植をせずに治った人が一人いらした」という事実があること。そう。成田さんが二人目になるのよ!
成田)セカンドオピニオンでの容赦のない説明を理解したことで、気持ちが治療に向かうかというと、そうではありませんでした。私は一層「移植」という選択を受け入れられなくなっていました。そして、主治医のO先生にはそのままの気持ちを話しました。「お話はよくわかりましたが、今は移植を受け入れることができません。でも治療を全否定しているわけではありませんので、もう少し経過を見守っていただけませんか」とお願いしていました。
O先生は「わかりました。しっかり経過観察しながら、また怪しきものが出てきたり、体調に変化があった時は、その時点で出来る治療を考えて行きましょう」と明るく力強く言ってくださいました。でもその表情は、気のせいか少しだけ困っていらっしゃるようにも見えました。
そしてその足で耳鼻科に行き、I先生にも同じ話をしました。でもI先生は、「今は大人しくしているだけで、細胞レベルでは消えていませんよ。疲れやストレスを溜めると、いつまたスイッチが入るかわかりません。その日をただ待つだけなんてできません」と、ある提案をして下さいました。
それは「腫瘍が再発した鼻の奥を広く切り取る手術をするのはどうか」というものでした。鼻にはたくさんの毛細血管が集まっています。血液のガンですから、体内に転移することは抑制できないけれど、鼻への抑制にはなるというお話でした。耳鼻科としてできることを懸命に考えてくださったのだろうと感謝しました。これなら1週間ほどの入院ですし、抗がん剤などは使いませんから、体力もさほど落ちることはないと思います。
鼻だけの手術なので、また病室でスクワットや軽い体操をして体力を温存する自信はあります。これなら、すぐに仕事にも復帰できると思いました。
こんな選択肢があったなんて!!「もう一度、広範囲の検体をするのだと考えれば良い」と捉え、私は新たに示されたこの提案を受け入れることにしました…。
I先生は、どうしても移植を受け入れられない私に、一段階ステップを用意してくださったのかもしれません…。
武枝)情を差し挟まないセカンドオピニオンに引き換え、両先生の何という温情!成田さんの身になって、真剣に活路を模索して下さるなんて!クールな医師でありつつ、成田さんの人間性や心情まで細やかに汲み取って下さるI先生、O先生に感謝感謝です。
患者さんにどう向き合うか、お医者さんにとって難題だろうとお察しはするのですが、患者の立場からすれば、もちろんドクターには的確に病状を把握しては頂きたい、けれど、八方ふさがりで逃げ場のない隅っこに患者を追い込んでまで「覚悟」を求めて欲しくはないですよね。少しでも心に“糊しろ”が持てる程度に留めておいてもらえたら有難いのですけれど。ストレスを溜めるのがよくない病気だと言われているのに、病状の説明を受けたり、決断を迫られたり、それまでにいろんな検査を受けたり、それだけでもう“ヘビー・ストレス”だよ~。
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