第三楽章 〜生還〜

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3-5 再び私の時間を止めないで!

武枝)わあ~成田さんも、ですか!夢心地というか、夢うつつというか……不可思議な充足感!お店で頂いた料理やワインの美味しさに、私、「これって!何!」ばかり連発していたけれど、それは、「何を話したのかさえ思い出せないほど、ただただ深いところで感じ合っていた時間」に対する実は歓声だったような気がしています。

成田)うんうん!まさに「これって!何〜!」(笑)は料理のことではなかったのですね。

このやりとりを書いている今は、熱が37.7度あります。高熱ではありませんが、だるいです。単なる風邪ならいいのですが、状況が状況だけに、初めて「悪性リンパ腫」が見つかった時とつい重ねて考えてしまいます。でも武枝さんの直感通り、私自身も”再発”している感覚は微塵もありません。

ただ、冷静な言い方をすると、それが私の病気の特徴でもあるそうです。初めてのことなら、多くの人が軽い鼻風邪だと思うでしょう。でも、私は一度、その経緯を体験しています。発見の難しさゆえに手遅れになりやすい病気であることも知っています。だからこそ、ドクターも「怪しきは疑う」で、検査をしてくださっているのだと思います。今は、結果を待つしかありません。

それでも私は、結果を聞くその日まで「希望」を捨てません。笑い話になっていることを今は信じています。でも、「再発の可能性がある」と言われた時点で、血液内科のO先生からは、再発だった場合の治療法について説明がありました。それは、以前の治療法だけではまた再発を繰り返すので、そのあとに「骨髄移植」をするというダメージの大きな治療法です。
弱気になるわけではありませんが、その時、”私は何を選択するか”を、ぼんやりとですが考えています。怖くないというと嘘になります。怖いし怒りも感じます。だからこそ、その感情に負けないよう、少しだけ心の準備もしています。

武枝)「少しだけ心の準備もしています」のその言葉、胸が痛くなります。

成田)今、一番強く思うのは、2年前の退院から、私なりに頑張って体調と生活を取り戻してきたのです。私の今後の役割や進む道も見えてきたばかりです。また振り出しになんて戻ってたまるもんですか!あのとき私を導いてくださった何者かにお願いします。「どうか、再び私の時間を止めないで!」         

武枝)そうよ!また振り出しになんて戻ってたまるもんですか!成田さんには、通り過ぎた女神が振り返って授けた大きな使命があるのですからね。

危険と隣り合わせの職業をあえて自ら選んだ人たちって、万が一の状況を覚悟しつつ、予知して回避するすべを具えていて、その時の決断の潔さは、ある種、神がかっている気がするけれど、成田さんにもそれを感じます。
ぎりぎりのポイントまで攻めて、いつも願いを叶えてきた胆力が成田さんにはある!そこに、私は希望の道筋を感じるのです。

成田)私は、そんなすごい人間ではありませんが、武枝さんとのこのやりとりが、検査結果を待つ今の私にとって大きな支えになっています。ここまで、ゴールを決めず、気持ちのおもむくままにやりとりをしてきましたが、ゴールは希望に溢れたものになるに違いありません。「通り過ぎた女神様さえ振り返らせてみせましょう」と毎日何度も声に出しています。不思議な力と勇気と愛が溢れてきます。

武枝)このやりとりが、検査結果を待つ今の成田さんにとって大きな支えになっているのだとしたら、私はこれほど嬉しく、光栄なことはありません。

告白しますが、これまで、不届き千万ながら、自ら進んで、人のためになりたいとか、誰かの支えになりたいなどということを思ったこともなく生きてきました。逆説的かもしれないけれど、ある意味、そんな不埒者としての自分に忠実だったからこそ、粉飾することなく、真っ向から成田さんに向き合えたとも思うのです。そして、こういう形で、検査結果待ちの見えない不安に対してタッグが組めたことに感動しています。

どうか、この一連の出来事が笑い話で済みますように!

成田)武枝さんが不埒というなら、私も随分自分勝手に生きてきました。だからこそ深いところで響き合えるのかもしれませんね。というより、言葉を選ばず自分のままでいられる気がします。

武枝)そうなのよねえ。まったく齟齬が生じない!自分の言いたい事がそっくりそのまま伝わるって、難しいことなんだけれど。

成田)武枝さんとのやりとりは、大きな大きな支えですとも!最強のタッグですよ。二人で笑っていれば、きっと女神様も仲間を連れてこられて、またまた天の岩戸を開いてくださるに違いありません。そのことを予感させるように、昨日右耳の鼓膜に入れていたチューブが突然抜けたんです。放射線の影響で、中に溜まっていた水が乾いて、もうチューブなしで音が聞こえるかもしれないそうです。嬉しかったな〜。でも、喜んだのも束の間、一夜明けると、今日は自分の声がこもって聞こえます。

岩戸が開けば、この声もクリアになるかしら。今週には病理検査の結果も出るでしょう。明後日は、転移がないかを綿密に調べる全身MRI検査をします。この山を越えたら、薄紅色の沈丁花が咲き誇っているかしらね。

武枝)私は、そうだと信じています。これ以上何を天が、成田さんに厳しく試さなければならないことがあるというのでしょう。どうか、いい結果が出ますように! 万が一、疑わしいと一度出たとしても、セカンド・オピニオンで覆ることがある!

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