武枝)それにしても、成田さんと共に全力で闘って下さった病院の医療のプロたちは、何を1番大事だと思って医療に携わっていらっしゃるのでしょうね。おそらく、言葉では定義のできない“心の中のある思い”があって、それを最優先に考え、それぞれのポジションに応じた行動で示そうとしている方たちなのではないでしょうか。思いをひとつにする者同士(医療のプロも患者のプロも)連帯し、連動すれば、大きな力になりうる、そう信じている“チーム”だったと思うのです。
成田)何を1番大事にされているか直接聞いたことはありませんが、今思えば、いわゆる患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を大事にされていたのでしょうか。ご承知のようにQOLとは、「生活の質」などと訳されますが、精神的、社会的活動を含め、患者がいかに自分らしく生活をできるかを尊重しながら治療を選択していくことですね。入院の時期を決めるときも、入院してからも、仕事を持つ一人の社会人として尊重していただいたと感じています。それは、今も会話の端々に感じます。
武枝) QOLを重視するって、言うのは簡単ですが、その本質的な意味で患者さんに向き合うって難しいことだと思うのです。その病院の医療チームでは、QOL をことさらに目的に掲げることなく、当然の振る舞いとして実現させているって、素敵です。
昨今、「弱者にやさしく」とか、私には上から目線に聞こえてむしろ耳障りのよくない言葉が氾濫しています。そんな中、とてもフェアな環境で入院生活ができたことは幸せでしたね。
成田)そこですよね。患者を「健康弱者」なんて見方をせず、社会との繋がりを持つ一人の人間として尊重して下さったことが、私には何より有難いことでした。この病院のどこにも、QOLなんて掲げられてはいませんでしたし、私自身も、自分が病気になるまでは、その言葉は知っていても、なんだか綺麗事のように感じていました。実際には、患者と医療スタッフの信頼関係が前提になると思いますし、患者自身の意識も変わらなければ、まだまだ本当の意味での実現は難しいように思います。私が入院した病院でも、病院の方針というより、個々のドクターの考え方に依るところが大きいのではないかと思います。
耳鼻科のドクターにご紹介いただき、初めて血液内科の医師を尋ねた時のことは今もはっきり覚えています。まずは、その出会いから話させてください。
武枝) 成田さんにとって、世紀の瞬間ですね。
成田)そう!確かに世紀の瞬間です。初めてドクターと対面する時って、患者はみんなドキドキしながら診察室のドアをノックすると思います。どんなお医者さまかな〜って。ところが、そんな私のドキドキを一瞬でかき消すような大きな明るい声が聞こえてきました。
「はい、どうぞ〜!」
深刻な告知を受けた患者を迎えるには、意外なほど明るい声でした。その声に誘われるようにドアを開けると、「あ〜、成田さんですね!大変でしたね。びっくりされたでしょう〜」と親しみを込めた声で迎えて下さいました。とても安心したことを覚えています。
そして病気や治療についての怖い説明を聞いている間も、私はドクターの明るく自信に満ちた声に救われていました。
声って大事ですよね!私は、目の前のドクターに”一声惚れ”していたのです!
武枝) 同感です。
成田)とは言っても、それから、PET検査(陽電子放射断層撮影)と言われる全身のがん検査や脳への転移がないかを調べるMRI検査、心臓の検査などがあり、次にドクターと会えるまで3週間もありました。実はこの間が一番不安になります。前にも書きましたが、ついついネットで病気について調べてしまい、のちにドクターから「ネットには怖いことしか書かれていません、情報も古いものが多いです。見ないほうがいいですよ」と言われましたが、ドクターと話せない日々を、ただじっと待ってなんていられないのも患者の心理です。
私もその間、いろいろな情報に触れ、やはりセカンドオピニオンも受けようかと揺れました。友人が有名な大学病院の医師を勧めてくれたり、話題の民間療法を紹介されたり。中には、高価なお祓いを受けるよう勧めて下さる方も(笑)。
武枝) よくぞ、お祓いの方向に引っ張り込まれずに済みましたねえ。勧めて下さった方も、成田さんのことを思ってのことでしょうが。日ごろから鍛えている自分の直感を信じての決断力がぎりぎりのところで生きましたが、その時の揺れる気持ちは、想像を超えます。さぞかし、不安に押しつぶされそうになっていたのでしょう。
成田)そうですね。情報があればあるほど、自分の判断が揺れたり、人に頼りたくなるのが人間ですね。不安の中で私にもその気持ちは生まれましたが、一方で、「何かと繋がった」という自分の感覚がますます冴えてきていて、結果的には、与えられる情報より、自分の内なる直感を信じる気持ちが勝りました。
3週間後、全ての検査結果が出揃い、治療方針を聞きに病院を訪れた日。実はあのY子さんが付き添って下さり、私の手を握っていて下さったんですよ。そしてドクターの説明をノートに書き取って下さってました。ドクターは、改めて私の病気について、検査結果を踏まえての治療法や治療期間について、治療の副作用について、再発率やその時はどんな治療になるか等、2時間くらいかけて丁寧に説明して下さいました。
やはりその言葉は明快でわかりやすく、声も聞き取りやく力強いんです。それでもやはり怖い説明のところで思考が止まり、全てを聞き取れてはいないものです。後に、Y子さんのメモがどれだけ役に立ったかしれません。また、不安げな私を察してか、ドクターも、「成田さん、分からないことは、いつでも何度でも話しますから」と言って下さいました。更に、「病院では思いっきりわがまま患者になって下さい。遠慮せずどんな変化も教えて下さい」とも。
もう十分ですよね。私は、このドクターとなら、何でも話し合いながら病気と闘っていけると確信しました。
いつもお読み頂きありがとうございます。
毎週水曜日に更新してまいりました「生(いのち)を見つめて〜キセキの対談〜」
これからは、不定期更新となります。
更新の際には、今までどおりフェイスブックでお知らせ致します。