第一楽章 ~再会~

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1-6 さあ!本番だ

武枝)ドクターも成田さんの想いに理解を示してくださったそうで、おそらく、この患者さんとなら、ドクターとしての力を最大限発揮できると思われたのではないかしら。そのドクターとの出会いについては、後で聞いていきたいと思います。それにしても、病気が、成田さんの想いを察して、足踏みして待っていてくれることなんてことがあり得るのでしょうか。

成田) 想いの強さに、病気が足踏みしたか、体が火事場の馬鹿力を発揮したのでしょうか。でも、そんな私に、体は大きなサインを出してきました。いよいよ脳や心臓の検査結果も出揃い、入院日を決めるカンファレンスの日に、ドクターからまたまた衝撃の報告を受けたんです。「成田さん、実は、心臓に異常が見つかりました。動脈と静脈の間に小さな穴が空いて血液が漏れているようです。このままでは心臓が抗がん剤治療に耐えられないかもしれません」と。

がん治療をすぐ始めるか、心臓の検査と治療を優先するべきかが、血液内科と循環器内科で話し合われました。そんな時、さらに追い打ちがかかります。翌日、耳鼻科を訪れると、内視鏡で鼻の奥を診ていた医師の顔色が変わりました。

「成田さん、腫瘍が急激に肥大してきています。もう猶予はありませんよ。治療を急ぐように血液内科に連絡します」と、その場でお電話をされました…。結局、「リンパ腫の状態が待った無しという事で、心臓を24時間見張りながら、がん治療を優先しましょう」ということに決まったんです。ステージも一つ上がっていましたから、もう見切り発車するしかなくなったんですね。最初の告知から、すでに一ヶ月半近くが経過していました。

さすがの私も、仕事はもう無理だと理解しました。でも、せめてキャンセルをしなければいけない企業様には、伺ってお詫びしたいと思いました。もう時間がありませんから、その日すぐに先方にお電話をしました。11月の仕事を頂いている企業の統括部長とは、翌日お会いできる事になりました。その謝罪の場で、私は、これから病気と闘うための大きな力となる、最高の”応援の言葉”を頂いたんです。

私が、病名と現状をお話しすると、驚きつつも黙って聞いて下さっていた部長が、最後に力強くこうおっしゃいました。「成田さんの底力を信じていますよ。だから、来年夏のオファーを出しておきます。また一緒に仕事をしましょう。」って…。武枝さん、私ね、この日初めて泣いたんです。告知以降、泣いたことのなかった私ですが、その涙は、病気が辛いからではなくて、嬉しくてありがたくて、感情が涙と共に溢れ出てしまったようです。

その時初めて、病気を克服した先の自分をイメージすることができたんです。「待っていてくれる人がいる。私は必要とされている。私は必ず戻ってくる。」って確信しました。そうして、お詫びに伺った先々で、愛ある言葉をいただきました。このことが、結果的に私に未来を見据える力をくれたのだと思います。

だから武枝さんが、「希望に満ち溢れ、輝きながら次のステップに進んでいる話を聴いているような錯覚に陥るのは、一体どういうことなのでしょう。」と感じて下さったのではないかしら?錯覚ではありません!私は、武枝さんの人を深く洞察するその感受性に逆に驚きました。いえいえ、それが武枝幸子さんですけどね。

でも、その頃本当は、相当体がだるくなっていました。お詫びに伺う電車の中で、つり革を持って立っているのもギリギリの体力でした。気力や気合いだけではどうにもならないこともあると体が私に伝えていました。それでもまだ、10月のスピーチコンサルの仕事だけは全うしたくて、スピーチ本番は見届けられないけれど、最後のセッションまでは全力を尽くそうと思っていました。もし私のこの判断が命が縮める事になっても、それが自分の寿命だと受け止められると感じていたんです。こんなこと誰かに相談していたら、きっと猛反対されたでしょうね。だから、誰にも言わず、自分で決めました。

忘れもしません。この最後のセッションを終えたのは、2015年10月20日です。自分で決めたところまで全てをやり終えて安堵したこの夜。なんという事でしょう。高熱が出たのです。その時の私ですか?変な感じなのですが、「はい、わかりました」と誰にともなく呟き、自分でタクシーを呼んで、身一つで緊急入院しました。

私の体は本当によく頑張ってくれたと思います。深夜に病院に向かいながら、どこか心は清々しく、とても穏やかでした。これで存分に病気と闘えるね〜って。自分と繋がっている何者かに話しかけ、心から感謝している私でした。

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