第二楽章 ~心模様~

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2-8 大部屋の同志たち

武枝)成田さんは人と話すことで元気になり、人は成田さんと話すことで気分が晴れ、「私も成田さんみたいになりた~い!」と思う。これって、いい循環ですね。患者さんの中にも、成田さんに感化されていった人がたくさんいたんじゃないかなあ。

成田)感化というほどではないと思いますが、有難いことに、「あなたと同じ部屋でよかった」と何人かの方に言っていただきました。それで、私もまた元気をいただいていたのですけどね。

私は、一人での入院でもありましたから、寂しい個室より、賑やかな6人部屋を選びました。6人部屋にも色々あって、ナースセンターに近いお部屋は重篤な方やご高齢の方が多く、私たちの部屋は、意識がしっかりしていて、薬の管理や自分のことは自分でできる人たちの部屋のようでした。私なんか、洗濯も病棟のコインランドリーでしてましたからね。同じ部屋の人とも、体調の良い時はよく話しました。少し部屋の中での様子をご紹介しますね。

武枝)「私は、一人での入院でもありましたから、寂しい個室より、賑やかな6人部屋を選びました」というのも、成田さんらしいなあ。病いの中にあっても、元気部分を交換し合って、少しでも楽しい時間にして盛り上げましょという感覚ですね。病室でも、新局面を創り出すチャンスメーカーっぷりを発揮したのでしょうね。

成田)私がいた6人部屋は、短期間で退院していく人が多くて、あっという間に私が最古参になりました(笑)新しい人が入ってらっしゃると、私は部屋の入口のネームプレートを見て、お名前を覚えるようにしました。そして機会があると「〇〇さん。成田と言います。よろしくお願いします」と話しかけました。名前を呼び合えば人はあっという間に仲良くなります。互いの病気や検査について情報交換したり、たわいない話をしたり、時にはご家庭での気がかりもお聞きしました。その頃の私は、体調に波がありましたが、気分の良い時、仕切りカーテンを開けていると、誰かが話に来てくださいました。女性はみんな話好きですね。

武枝)大体は周りに遠慮してカーテンを閉め切るのだけれど、成田さんのような最古参!がオープン・マインドで接してくださると、ありがたいと思うなあ。しかも、成田さんは人の話を聴くプロでもあるし、辛いことも皆さん吐き出すことができたでしょう。

成田)お隣の老婦人は、「いつ退院できるか」ばかりをドクターに聞いていらしたので、ある日「ご心配ごとですか?」と声をかけると、ご主人が重病で他の病院に入院されている中、ご本人が心臓の発作で倒れ、ここに担ぎ込まれたとのでした。「ご心配ですね。でも、ご主人のためにも、まずは奥様が元気にならなきゃですね」と言っただけなのですが、退院して行かれる朝、私にこう声かけてくださいました。「若いあなたに教えられました。まずは私が元気でいなくちゃね。あなたのご快復を心から祈っていますよ」と。老老介護の現実を見た気がしました。今頃どうされているかな。

武枝)自分が心臓の発作で倒れていても、ご主人のことが気にかかる奥様。そんな方だからこそ、成田さんに「ご心配ですね。でも、ご主人のためにも、まずは奥様が元気にならなきゃですね」と言われただけで「若いあなたに教えられました。まずは私が元気でいなくちゃね。」って、すっと考えを前向きに修正できるのでしょうね。

成田)また、ある女性は、ペースメーカーを入れたくないと悩んでらっしゃいました。ご主人が「また発作が起きる前に、このまま入院して機械を入れてもらえ」と命令口調の大きな声でおっしゃるのに対し、「一度退院して考えさせて」と小声で訴える奥様の不安げな声が、聞こえてきました。そのあと、一人で談話室に座ってらっしゃる姿をお見かけし、思わず「ごめんなさい、ご主人との会話が聞こえちゃった」と話しかけると、「怖いんです。すぐには決心つかなくて」と。そこで…、

成田「ご主人はどうしてあんな風におっしゃるのかしら?」

Aさん「また私が倒れると困るからでしょう」

成田「もしペースメーカーを入れたら何が出来るようになりますか?」

Aさん「そうね…これまでのように主人と旅行に行けますね。あっ!主人もそう思っているのかしら!!」

その後、Aさんはご主人ともう一度ゆっくり話され、一度退院して、改めてペースメーカーを入れることにしたこと。ご主人と旅行に行く話をしたことなど笑顔で話してくださいました。「成田さんのおかげで覚悟が決まったわ」と。こういうのお節介というのかもしれませんけど、嬉しかったな。今頃、夫婦旅行を楽しまれているかしら。
また、妹さんが毎日付き添いに来られていたご婦人は、退院の日にハグしてくださいました。「あなたに元気をもらったわ。ありがとう。成田さんも早く良くなってね!」と。こちらこそ「ありがとうございます」なのです。

私は病院で、患者さんの数だけ様々な人間関係や人生があることを垣間見せてもらいました。そんな女性たちと、何かのご縁でひと時を同じ部屋で過ごし、元気になって元の生活に戻られる姿を見送る瞬間が、大好きでした。私こそ、退院して行く皆さんから、元気を一杯いただいていたのです。

武枝)ビジネス&パーソナルコーチは本当に成田さんが自分で見つけ、築き上げた天職なんだなあって、改めて思いましたよ。病室での成田さん、笑声のレッスンやコーチングをしている成田さん、私はその場に居合わせてはいませんが、本質的に同じですね。相手の気持ちのいい方向に、ハッピーに近づくように、その人の長所を最大限発揮できるように、自然にリードしてる。そして、目の前の人が気持ちよく、前向きに、ハッピーになっていくことが成田さんのエネルギー源にもなっているんですものね。

成田)でもね、笑顔で退院して行く人ばかりではありません。ご高齢で、施設から入院して来られ、また施設からお迎えが来て戻って行かれる方や、遠くに住む息子さんに迷惑かけたくないからと、一人で闘病している方もいらっしゃいました。一人暮らしに戻る不安を抱えたままの退院に笑顔はありません。退院の日、お迎えもなく、たくさんの荷物を持って一人タクシーで帰宅される方を、エレベーターホールまで付き添い、ドアが閉まるまで手を振って見送りました。こういう時は少し切なくなります。「より良き人生を!」と願わずにいられませんでしたよ。

武枝)ホント切ないですね。だけど、成田さんにお見送りしてもらったこと、どんなに慰めになったことか!その方の心の宝物入れに仕舞われたことでしょう。

成田)そういう私も人ごとではありませんけどね。これからは、ますますシングルが増えるでしょう。一人暮らしの高齢者が病気になった時、受け入れてくれる病院は多くはありません。まずは、「身元引き受け人」と「支払い能力」がなければ入院もできないのです。このことは、社会的な緊急の課題だと感じています。

武枝)そうですねえ、私にとっても他人事ではありません。先ほどのお話のように、息子さんに迷惑をかけたくないからと一人で闘病していらっしゃった方もあります。私は、そんな風に気丈に明るく闘病できるか、まったく自信がないけれど……

成田)大丈夫!私が笑えるネタを持って参上しますよ。もしお先に失礼していても、天国から夢に現れて笑わせますからね〜。

武枝)ワォ!心強いわ!頼りにしてるからね~。なんてことを気軽に言い合えるって嬉しいですね。元気な時も、病気の時も、いかに在るか、それは成田さんがすでにずっと自分に問い、実行してきた、いや、今もやり続けていることですよね。そして、病気になっても、生きるスタンスはぶれない。病室の人たちを元気にし、笑顔にし、その上更に、今回こうして、どんな状況でも明るく前向きにできるヒントをいっぱい公開してくださっている!

成田)そんな風に言っていただくと、目頭が熱くなってきました。なんだか自慢話みたいだったかな〜と心配していたところでした。でも、決して自慢ではないです。

武枝)自慢話だなんて!とんでもない。よくぞそこまで!と驚くばかりです。

成田)日常から離れ、ただ命と向き合っていた病院での時間は、「生(いのち)への感謝」を感じていた時間でもありました。だから、そこで出会う人とは、同志のような気分になるのかもしれません。中には長い間カーテンを閉めたままの方もいらっしゃいますが、少し体調が良くなり、初めて一人でトイレに行かれる姿を拝見した時は、こちらも嬉しくなるんです。また1日の多くの時間をふさぎ込んでいらっしゃる方も、お孫さんがお見舞いにいらっしゃると明るい声で話されます。そんな様子を見聞きし、それぞれのカーテンの中で、みんな笑顔になっていたと思います。私は俄然、個室より大部屋をお勧めしますね(笑)

大部屋のありがたさを実感したエピソードを、もう一つ紹介させてください。それは、私が自ら「坊主頭」にした時のことです。

武枝)エッ?「坊主頭」って?病院でですか?入院中、得度をしたの?それはないよね(笑)成田さん、坊主頭、似合いそう~以前、化粧品のCMに坊主頭で登場したモデルの女性がいたよね。アイコニックって名前だったかな。成田さんの坊主頭、見たかったなあ。

成田)自分で言うのもなんですが、すごく似合いましたよ!みんなに見て欲しくてブログに写真をアップしたくらいです(笑)武枝さんも見てくださいね。

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