第一楽章 ~再会~

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1-1 序曲

武枝)平成29年(2017年)の成田さんからの年賀状に、印刷で「思いがけない病を経験しましたが、お蔭さまですっかり元気です」とあり、更に「不躾ながら、賀状での新年のご挨拶は今年で失礼させて頂きたく存じます」と書かれていて、それなのに、余白には自筆で「今後とも、よろしくお願い致します」と。

それを見て、えっ、どうしたどうしたと!?!?のマークが頭の中で飛び交い……それだけじゃなく、成田さんが普段あまり発することのない呻き声のようなものも聴こえたの。電話をかけて、癌に苦しんでいたことを初めて知り、仰天してしまいました。

考えてみれば、成田さんが東京に活躍の場を移して以来、電話をかけるのは20数年ぶり。まさかそんな事態になっていたとは。

成田)心配させてごめんなさい。あの年賀状は、復帰からちょうど一年が経ち、”新たな成田万寿美を生きるぞ宣言”でもありました。呻いていたというより、元気だからこその人生節目の年賀状だったのですが、驚かせてしまったようですね。
でもそのお陰で懐かしい武枝さんの声を聞くことができたのですから、嬉しかったなぁ。

病名は悪性リンパ腫という血液のがんです。
2015年の夏に告知を受けました。親にも知らせずこっそり一人で闘病しましたが、私はなぜかその時、”必ず生きて戻ってくる”という根拠なき自信があったのですよ。

「がんに苦しんでいた」というより、がんと向き合ってみて、学びや気づきがあまりに多く、誤解を恐れずにいうと、人生が豊かになったような気がしています。
当たり前にあるものに感謝し、今この一瞬が愛おしく感じられるからでしょうか。
昔より少しは人の痛みもわかるようになった気がします。
あのままだと、えらい傲慢な女が出来上がっていたかもしれません(笑)

武枝)やっぱり、ご両親にも病気のことを知らせていないのですね。
これまでにも精神的に痛い目や怖い目に遭っている成田さんのことを知っているけれど、こちらに伝わる時にはすでに自身の中で解決しているというか、整理されていて、いつも“泣き言”にはなっていない。
今回の大病の後に”新たな成田万寿美を生きるぞ宣言”をして、「人生が豊かになったような気がして」というのは、とても成田さんらしい。
とはいっても、それは“成田さんらしい”では済まされない、苛酷な日々だったと思うのです。

こっそり一人で闘病していながら、「がんに苦しんでいた」というより「がんと向き合って」きたって、そう言えるほどに昇華するのは並大抵ではなかったはず。
その気持ちの変遷もじっくり聞かせて下さい。

2015年の夏に病気の告知を受けたそうですが、その前に何かシグナルがあったでしょ。

成田)今思えば、最初に体調に変化があったのは2013年秋でした。
告知を受ける2年近くも前です。

当初は風邪のような症状だったので町の病院で薬を処方してもらいました。それでも鼻水鼻づまりが改善されなくて、別の耳鼻科に行くと、”慢性副鼻腔炎”との診断でした。
でも処方された抗生剤はまったく効果がなくて、どんどん強い薬になっていくのが不安でした。

さらに毎回行われる吸引は、痛い上に治療後鼻血がなかなか止まらなくて・・・、
半年通いましたが悪化の一途。とうとう堪忍袋の緒が切れまして、
「いつ治るんですか!もう、限界です。」と啖呵を切って通院をやめてしまいました。
それからしばらくして、友人から大きな病院の医師を紹介してもらいました。
そのドクターが、のちに本当の病名を私に告知されることになります。
それでも、そのドクターの最初の診立ては、まだ”鼻中隔彎曲症”という病名で、そのせいで鼻が詰まりやすく炎症が起きているとのことでした。

それで全身麻酔で左鼻の骨をまっすぐにする手術を受け7日間入院しました。
術後は鼻呼吸ができなくて激しい痛みもありましたけど、それより何より鼻の穴いっぱいに詰め物をした顔だけは誰にも見られたくないと思いましたよー。
同じ手術をした同室の患者同士では笑い合いましたけどね。笑うと今度は痛くて泣けてくるの。

そうして術後4日目くらいから鼻の詰め物を一日一つずつ抜くのですが、その度に受け皿の底が見えないくらいの大出血で、毎回「午前中絶対安静」になりました。
でも、出血が止まればケロリとして食事を平らげ、午後はノートパソコンを談話室に持ち込み、2ヶ月後に出版予定の本の最終校正をしてました。

それが2014年3月末です。窓の外はソメイヨシノが満開で、
「待っててね〜、桜〜」なんて笑顔で叫びながら、希望に溢れていました。
この時は、やっと楽になれる。これで完治する。と思っていましたからね。

でも、甘かったんです。
ここまでは、序曲に過ぎませんでした。

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