成田)私の思う「プロ患者」のあり方とは、
- 自分ができることは可能な限り自分で行動する。
- 自分の体に起こることは逐一チームに報告する。
- チームの目標に向けて常に前向きに会話する。
- 治療法や薬についての不安は納得いくまでよく聞く。
- 自分の意見はきちんと伝える。
これって、仕事をする時のチームの在り方と同じですよね。
「病気を治す」というチーム目標に向けて、それぞれの知識と経験を持ち寄り、互いに尊敬し、信頼し合い、対等な関係性で話し合い、情報を共有し、チャレンジする。そして大事なことは、チームリーダは患者自身だということではないでしょうか。だからこそ、チーム医療には、「患者力」も必要ではないでしょうか。
武枝)ホント!すべてのプロに当てはまることでしょうね。そんなチームを組めば、相乗作用で、不可能が可能になるってこと、たくさんあります。「チーム医療におけるリーダーは患者自身」、名言ですねえ。
成田)お待たせしました。笑える話をしますね。放射線治療も終盤に差し掛かった頃、私は夜中になると喉の奥に溜まる異物が苦しくて、何度も洗面所に行っては吐き出していました。普通の痰とも違う、ザラザラした異物と血液の混じった塊で、吐き出す時に喉に痛みがあるほどのものでした。そのことが気になった私は、「マスクメロン治療(放射線)」の際にドクターに聞いてみました。すると、想像もしなかった凄い答えが返って来たんです!
放射線科のK先生は相変わらずの大きく快活な声でこうおっしゃいました。「成田さん、放射線はね、ゴキブリは殺せるんだけど、死骸を取り出してくることはできないんですよ!」と。
「えっ!」私は一瞬絶句したあと、笑いが止まらなくなりました。「腫瘍はゴキブリなんだ!」そいつは完全に死んでいる。その死骸を自分の体が外に出そうと頑張っているのだ!と妙に納得できたんです。胃に落ちれば胃液が溶かし、喉に溜まれば痰が絡めて外に出してくれる。私の体も頑張っている。素晴らしい!!って。それからは心なしか苦しみが軽減し、塊を吐き出すたびに「はい、ゴキブリ一匹出ました〜!」なんて、笑えるようになりました。
痛みも苦しみも受け止め方一つで変わるものです。そのたとえ話があまりに面白かったので、血液内科のドクター達と笑いを共有したくてすぐに話しましたけれど、「さすがK先生!独特の表現ですね」と苦笑されていました。でも、心の中では「やるな!」って思われていたような気がしましたよ。「今日はゴキブリ出ましたか?」「はい、朝から大きいのが!」なんて、何度か会話の中で使っては一緒に笑いましたから。
私は、K先生のそのメタファー(たとえ話)をすっかり気に入ってしまいました。武枝さんなら、今頃大笑いしてくださっているのでは…..。
そうして、2015年12月2日水曜日。5週間に及んだ放射線治療の最終日を迎えました。この日を指折り数えて待っていました。
武枝)K先生のそのメタファー(たとえ話)、体操競技で言えばG難度のテクニックですよねえ!後方抱え込み2回宙返り3回ひねり並み!注意深く分解しないと把握しにくいけれど、分かれば上手過ぎて拍手喝采!ですよね。
メタファーごっこって、想像の世界で一人で楽しめて、お金も道具も要らず、わたしにとって人生の大きな愉しみのひとつですが、腫瘍をゴキブリにたとえて、症状を説明されたK先生に、大阪にも一人大ウケしている人間がいるって伝えておいて欲しいわあ。
そして、そのメタファーを活用してはしゃいでいる成田さんも、楽しみ方G難度ですね。
成田さん、5週間もの長い間、厳しい治療によく耐え、よく笑い、どんな局面でも楽しみ、よくぞ切り抜けてこられました!
成田)本当に、辛い時こそユーモアと笑いが大きな力になったと思います。
マスクメロン最終日は、いつも笑顔で迎えてくださった放射線科の看護師さんもとても喜んでくださいました。「マスクを記念に持って帰りますか?」なんて聞かれましたが、もちろん辞退いたしました(笑)今にして思えば、写真くらい撮っておけばよかったですね。滅多に見ることのできないものですから。でも、そんな心の余裕はなかったです。とにかく、顔に放射線を充てるという恐い治療を終え、心からホッとしていましたから。
武枝)そうよねえ。マスクメロン治療って言って気を紛らわしているだけで精一杯だよね。その気の紛らわし方も普通は思いつかないハイレベルのテクニックですが。
ともかく、マスクとはおさらば !クリスマスに退院してシャンパンで乾杯するのを待つばかりですものね。
成田)ところがその夜、私はとんでもない怖い夢を見たんです…。
…..夢の中で私は、いつもの硬く冷たい治療台の上にいます。目を開けると、白衣の首のない4人の屈強な男性が私を押さえつけています。「やめてくださ〜い!私はもう治療は終わりました〜!はなしてください!」と大声で叫ぼうとするのですが声が出ません。金縛りです…..
多分うなされていたのではないかしら。自分の声で目が醒めると汗がぐっしょり。夢だったことに気がついて心から安堵しました。やはり私は、地下2階に行くことが本当に怖かったのだと思います。
武枝)ちょ、ちょっと待って下さい!今までも治療の様子を聞いて心臓バクバクしていたのに、この夢は、強烈すぎます。もし、成田さんが声なき声で「やめてくださ〜い!私はもう治療は終わりました〜!はなしてください!」と叫ばなければ、連れて行かれていたかもしれないような……。本当に危うい……。でも、よかった!!
成田)ドクターからも「成田さん、よく頑張りました。今が痛みのピークです。これ以上辛いことはないですから」と励まされ、「治療の山は越えたんだ!」と思いました。その頃から少しずつ食べる努力もはじめましたけれど、まだまだ味覚も嗅覚もなく、固いものは喉を通りませんでした。でも、放射線治療が終ったことで気力は戻りつつありました。
まだ12月7日からの抗がん剤治療3クール目が残っていましたが、
最後の抗がん剤投与が始まった頃、病棟の談話室にはクリスマスツリーが飾られていました。
私はその横で、コーチングの国際資格を取得するための勉強を始めたんです。こんな日が来ると信じ、パソコンを持ち込んでいました。実は告知を受ける前に受験のための申請をし、コーチングセッションを録音したデータをアメリカの国際コーチ連盟に送っていました。もしその合格通知が届けば、インターネットを使って3時間に及ぶ筆記試験を受けることになります。
少しずつ気分が良くなっていた私は、合格通知が来ることを信じて試験勉強を始めました。そして同時に体力回復のストレッチや体操をするなど、頭と体のリハビリを始めていたんです。この様子を見ていた言葉の魔術師Fドクターは、通りがかりに「成田さん絵になるね〜」なんて声をかけて手を振ってくださったり。癒しボイスのイケメンA先生も「ご気分いかがですか?」と優しい笑顔で話しかけてくださいました。
入院中は、こんなちょっとした会話や笑顔の交流が本当に嬉しかったなぁ。武枝さん、私、この時にね、ツリーを見ながら改めて宣言したんです。「クリスマスに退院しよう!」「その日を成田万寿美の新しい誕生日にする」って。主治医のO先生に伝えると「高熱さえ出なければいいでしょう」と言っていただき、夢のようでした。
武枝)クリスマスツリーのそばで、闘い終えて痩せ衰えながらも希望に満ち満ちた成田さんの姿を今、想像しています。映像となり、動いています。言葉の魔術師FドクターもイケメンA先生もフレームインしました。お互いに交わす笑顔も浮かびました。主治医のO先生の声も聞こえたような……
しかも、大変な放射線治療を終えるや、コーチングの国際資格を取得するための勉強まで始めたなんて!最後の一滴まで力を使い果たした成田さんから、今まで以上に力強い新たな泉が噴きあがっているのを、ドクターたちは目を細めたり丸めたりしながら眺めていたことでしょう。
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