第二楽章 ~心模様~

§ はじめの方はこちら

2-7 ”魔法の言葉”にいやされて

成田)先ほど、車椅子の私に「今日は患者みたいだね」と声をかけ、私が「患者だよ〜」と軽口を返して笑い合ったドクターのことを、もう少し紹介させてください。いつも素敵な言葉で、私を笑顔にしてくださったこのドクターの人間的魅力を、「ドクターF・マジック」と名付けました。それは時に薬より心によく効きました。

武枝)私も、そのドクターのこと、もっともっと聞きたいと思っていたのです。なんだか、映画のワンシーンみたいに、成田さんの闘病の光景にフレーム・インしていらっしゃる気がします。さすが、心臓のご専門だけあって、ハートを見事に掴む!!(下手なシャレでごめん)

成田)武枝さん、下手なシャレどころか、まったくその通りですよ!このドクターには、私の心臓を隅から隅まで覗かれてしまいました(笑)。はじめてお会いしたのは、私が談話室で、お見舞いに来てださった編集者さんお二人と話していた時です。「循環器のFと言います。成田さん、今いいですか?心臓のカテーテル検査についてご説明したいのですが・・」と。やはりこのドクターも明るく気さくな印象でした。
私は、帰ろうとされる編集者さん達を引き止め、一緒に聞いてもらうことにしました。すると、ドクターの優しい口調と、手元の図を見せながらの説明が実にわかりやすかったので、3人共言葉をなくし、ただただ感服しながら聞き入っていました。そのあと私は、リスクも含め、納得して同意書にサインをしました。

武枝)この時の成田さん、自分が患者の立場ではなく、編集者さんと同じ立ち位置で、ドクターの説明を聞いていますね。ここにも自分を俯瞰している成田さんがいる!成田さんの俯瞰力と同時に、患者さんをそうさせるドクター・マジックもありますよねえ。その4人が膝を突き合わせている光景は、心臓のカテーテル検査の説明だなんて周りからは到底見えないでしょうね。なんか、楽しい相談でもしているのではないかと。

成田)お見通しの通りです。全体を俯瞰する癖は昔からありましたが、生放送で鍛えられた部分もあるかもしれませんね。その時の談話室全体の様子も、編集者さん達の表情も、ドクターの声も、録画を巻き戻して観るようにはっきり思い出すことができます。真剣かつ楽しげに仕事の打ち合わせをしているような光景だったかもしれません。

話が少し逸れますが、この病院が私にとって有り難かったことの一つに、手術や検査をする際の同意書のサインは、本人一人で良いという点にもありました。私のようなシングルは、いちいち身内を遠方から呼べませんし、私は親にも病気のことは内緒にしてましたからね。自分で全ての書類にさっさとサインしました。そのことも、自分が尊重されているような気がして嬉しかったですね。

武枝)こういう細かい部分についても、一人一人の立場を尊重する、QOLを大切にする精神基盤が病院全体に行き渡っているのですね。

成田)もちろん未成年者やご自身で判断できないご高齢の方の場合はまた違うでしょうけれどね。私の場合は、一社会人として信頼してもらえたようでありがたかったです。ただこれからの時代は、高齢のシングルがますます増えていきます。私は入院中、多くのシングルウーマンの現実を見ました。このことについてはまた改めてお話しさせてください。

話を戻しますね。その循環器のドクターはカテーテル検査の説明を終えた後、こうおっしゃいました。「僕はいつも病棟をウロウロしてまいすから、気になることがあったらいつでも声かけてくださいね」と。もう胸キュン!ですよね。ドクターが去った後、編集者さん達の目もなぜかキラキラ。「あんな素晴らしいプレゼンを聞いたことがないわ。良い先生ですね。説明がわかりやすいだけではなく患者を思うお人柄が伝わって来ました。」と感動されていました。なんだか嬉しくなって、お二人の言葉を、後日ドクターにもお伝えしました。ちょっと嬉しそうに見えましたよ。その様子を見て私もまた楽しくなりました。私って褒め名人なんです(笑)武枝さんも…そうですよね(笑)

武枝)病棟をうろうろしているドクター、素敵ですねえ。私が褒め名人かどうかは疑わしいけれど、本人の気づいていない素晴らしい部分を見つけることは楽しいし、私の趣味の領域かもしれません。

成田)趣味の領域かぁ!確かに武枝さんは、人間観察力が半端ではないと思います。相手の本質や言いたいことを瞬時にキャッチする感性がすごい。それは、誰でもできることではなく、趣味の領域だからこそ楽しくできるのですね。納得しました。私もその昔、生放送の司会者として、武枝さんに気持ち良く踊らせて頂きましたからね。あの頃、まだまだ自信のなかった自分を鼓舞できたのは、近くに武枝さんの存在があったからだと改めて思います。

さて、心臓のカテーテル検査の日が来ました。足の付け根の血管から心臓までカテーテルの管を通しますが、局所麻酔なので、ドクター達の会話も聞こえています。「あっ!」とか「えっ!」とか言われるだけでドキドキしました。そして、検査を終えて、足の付け根の針を抜いた後、ドクターFが、「女性だからアルコールで拭かないであげてね。しみるから」と指示する声が聞こえてきました。なんだか照れくさくて、「先生、私は今お酒を飲めない体ですから、せめてアルコールを浴びせて〜〜!」と、冗談を言ってしまいました。
すると、「成田さんと一緒に飲んだら面白そうだな〜」と会話に乗ってくださるドクター。手術室に笑い声が溢れホッとしました。それから、ストレッチャーで部屋に戻りますが、F先生も付き添ってくださいました。そのことに驚いていると、看護師さんが、「F先生はいつも、患者さんを部屋まで送って下さって、本当にありがとうございます」ってお礼を言われてました。スタッフにも信頼されてらっしゃるのですね。

患者さん達の人気が高いことも後で知りました。その移動中の短い時間に、ドクターは世間話のつもりなのか、こんなことをおっしゃいしました。「成田さんは、耳鼻科のI先生の紹介ですよね。いい先生でしょう?」「はい、会話も楽しいですしね」「尊敬するな〜。I先生は頭がいいんだろうな。本当のインテリはユーモアがあるんだよね」って。私は、なぜかこの会話が深く記憶に残っています。F医師の目指されているところが、なんとなくわかったような気がしました。

武枝)ああ、そういうことかあ。病棟をうろうろしているF医師に、私はすでにユーモアを感じています。そして、自分の配慮を人に気づかせないさりげなさにも、ちょっとしびれます。

で、カテーテル検査ですが、管を通す間の何時間も身動きしてはいけなくて、それに耐えられないって、ある受検経験者に聞いたことがあります。経験豊かなドクターならいいけれど、経験の乏しいドクターの練習台になった時は悲惨だったって。それで、結果はどうだったのですか。

成田)結局、カテーテル検査では心臓の異常は見つかりませんでした。そこで、今度は、口から消化器にカメラを入れて、心臓を裏から見るという検査をすることになりました。この頃、私は口内炎がひどくて、喉の粘膜も焼けて真っ白になっていましたので、この検査はとても辛いものでした。涙をポロポロこぼしながら検査に耐えた私に、F医師は、肩をトントンしながら、またこんな優しい魔法の言葉をかけてくださいました。「成田さんは、顔だけじゃなくて、心も心臓も綺麗でしたよ」って。まいったな〜!笑顔になっちゃいますよね。本当に、「ドクターF・マジック」なのです。

武枝)ひや~!羨ましい。☆

成田)さらにその日は、もうお一人、私に寄り添い気遣って下さったドクターがいらっしゃいました。血液内科の若い女性医師です。以前お話しした、緊急入院の時に迎えて下さったあのドクターです。こうして、いつもチームで見守って下さっていることが、私にはどれほど心強かったことでしょう。この女性ドクターも毎日病室に様子を見にきてくださいました。女性同士ということもあり、気になることをなんでも話しました。また、病気以外に、結婚観などについても話しましたよ。

その女性医師は独身で、お休みの日には猫カフェで癒されているということも知りました。ドクター達の、常に緊張感を伴う過酷なお仕事ぶりを拝見していると、ドクターも癒しの時間が必要だろうな〜なんて思いました。こんな、たわいない会話も、とても楽しい時間でした。あっ!そうそう、もうお一人、血液内科チームのイケメンドクターをご紹介しなくちゃ!

武枝)あらら、入院中の話を聞いているのに、このワクワク感は一体何なのでしょう。先ほどから、感嘆詞ばかり。

成田)でしょ!でしょ〜!その若きイケメンA医師は、私の主治医を補佐するお立場で、私のベットにも「主治医」の名前と共に、「担当医」として名前が書かれていました。出会いは入院前です。初めて脳のMRIを撮った時に、造血剤の注射をしてくださったドクターが、「血液内科のAと言います。よろしくお願いします」と丁寧に挨拶をしてくださいました。その時、お顔はマスクで見えなかったのですが、優しいお声が印象に残っていて、お名前を覚えていました。だから、入院してお目にかかった時にすぐにわかりましたよ。イメージ通り、素敵なドクターでした。そのA医師も、よほどのことがない限り朝夕病室に来てくださって、私の気がすむまで話を聞いてくださいました。痛みや薬のことなど、いつも体調を見ながら一生懸命考えてくださいました。

談話室でプリンを食べている私を見かけると、「おくつろぎのところ失礼します。今いいですか」と声かけてくださったり、少し遅い時間には「成田さん、今日は外来が混んでいて遅くなって失礼しました。ご気分いかがですか」と、もう帰宅時間なのに、私服に着替えてからでも顔を出してくださいました。「おしゃれなジャケットですね!」とお伝えすると、「妻が選んでくれたものです」なんて。そんなちょっとした会話に癒されていました。A医師はどの患者さんにも一人一人丁寧に話しかけられていて、その声を遠くで聞いているだけでも癒されました。声は目に見えませんが、重要なノンバーバル(非言語)コミュニケーションですよね。

武枝)本当にそう思います。誠意は目に見えないけれど、声が伝えてくれるんですね。美辞麗句ではなくて、ね。

成田)はい。言葉は時に嘘もつきますが、声は正直だと思います。ある時、「先生は患者さんに人気あるでしょうね!」とお尋ねすると、「いえいえ、ダントツ1位はO先生(私の主治医)です。F先生(循環器科)も人気あります。見習うことが多いです。私はまだまだですよ」と。ふふっ!ドクターも人気を気にされているのかしらね。一度、主治医のO先生に「この病棟のドクターはみなさん明るいですね!」とお伝えしたことがあるのですが、「血液内科では、とにかく患者さんには、明るく接するように言っています。患者と医師である前に、人対人ですから」とおっしゃっていました。

武枝)そこですね。心地のいい環境を作り出している根本は。

成田)自分が患者の立場になってみると、明るく接していただけることのありがたさを痛感しました。でも、一番明るいのは、そういう主治医のO医師でした。廊下から「成田さ〜ん」と明るく元気な声が聞こえて来ます。「女性は着替えなどしているかもしれないから遠くから声をかける」のだそうです(笑)こんな血液内科チームのドクターをはじめ、循環器科のFドクター、薬剤師さん、看護師さんに看護助手さんも代わる代わる様子を見にきてくださって、いつも病室は賑やかでした。

同室の患者さんから「先生たち、成田さんのところにいらっしゃる率が高くないですか」と言われたことがありますが、そんなことはありません。楽しげに話していたからでしょうかね。だって私は、患者さん人気ランキングトップ3のドクターに担当していただいてたのですから、贅沢の極みですよね。

武枝)”逆ハーレム”だあ~!
「前髪たらりん」のことがあって、ますます「チーム成田」の医療スタッフの素晴らしさが光り、有難さも一層身に沁みたでしょうね。

成田)入院中の私は、痛い時は「痛い〜」と言いながら笑い。怖い時も「マスクメロンに行ってきま〜す」と言って笑い。「プリン食べられた〜」と言って笑い。先に退院していく人を心からの笑顔で送りました。そうしていることで私は元気になれました。「どうせなら楽しく過ごしましょ。」精神ですね!つくづく私は、人と話すことで元気になる人間のようです。

いつもお読み頂きありがとうございます。
毎週水曜日に更新してまいりました「生(いのち)を見つめて〜キセキの対談〜」

これからは、不定期更新となります。
更新の際には、今までどおりフェイスブックでお知らせ致します。

引き続きお読みいただけますと幸いです。
ぜひ!フォローをお願い致します。

前のページ

次のページ


※ 記載内容に関するご質問・個人的ご相談には対応しておりません。